大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1022号 決定 1968年11月29日

申立人 鈴木福三郎

相手方 山田武次郎 外一名

主文

申立人が本裁判確定の日から六月内に相手方山田に対し金三三万円、同小林に対し金五万円の各支払をすることを条件として、別紙(三)記載の改築を許可し、かつ、別紙(四)の(1) (2) 記載の賃貸借及び転貸借の期間をそれぞれ昭和六四年三月末日までとする。

右許可の効力の生じた時から別紙(四)の(1) 記載の賃貸借の賃料を一ケ月七、五四〇円、同(四)の(2) の転貸借の賃料を一ケ月三、三五〇円とする。

理由

一、本件申立の趣旨及び理由の要旨は、

「1、相手方小林は、相手方山田から別紙(一)の(2) の土地を建物所有の目的で賃借している。右土地のうち約一〇〇坪余は昭和一六年中から相手方の先代小林友吉が賃借し、程なく相手方小林が相続によつて賃借人の地位を承継したものであるが、申立人は昭和二二年六月一二日相手方小林から別紙(一)の(3) の土地を相手方山田の承諾の下に期間を定めず転借し、右地上に別紙(二)の建物を所有している。

2、ところで、右建物はかなり古くなり、またこれによつては土地の利用も十分でないので、申立人は別紙(三)のとおりこれを改築したいと計画している。ところが相手方山田はこれを拒むので、その承諾に代わる許可を求める。」というのである。

二、よつて検討するに、資料によれば申立理由1のとおりの事実が認められる。しかして、本件手続の経過に徴すると、もし申立人が本件の改築を実施した場合、相手方山田は相手方両名間の賃貸借契約に増改築制限の約定があると主張して、紛争を惹起することが予測されるので、相手方山田に対する申立はその利益があるというべきである。一方相手方小林は転貸借契約に増改築制限の特約があると主張するわけではなく、改築許可に伴う利害の調整についての主張をしているにすぎないし、また本件に顕われた資料による限りそのような特約があるとは認められない。しかし、相手方山田に対する関係で許可の裁判をするに当り、原賃貸借の賃料等の借地条件を変更する付随の処分をする必要も生ずべきことを考慮すると、かような場合相手方山田のみでなく小林をも当事者とすることが合理的であると考えられる。従つて、本件においては、申立人は前記事情に拘らず借地法第八条の二第五項により、相手方両名を当事者として増改築許可の裁判を求めることができると解するのが相当である。

そして、本件に顕われたところによると、申立にかかる改築は借地の通常の利用上相当であり、かつ、許可を不相当とする格別の事情も認められないので、本件申立はこれを認容すべきである。

三、そこで、次に付随の処分について検討する。

1  資料によると、相手方両名間の原賃貸借の期間は昭和一六年の賃貸の時から二〇年とされ、昭和二〇年中地上建物が戦災で消滅し、戦時罹災土地物件令による期間進行の停止のあつたことを考慮しても昭和三七年頃には期間満了となり、借地法の規定によつてさらに期間を二〇年として更新されたと認められ、転貸借の期間は前判示の契約時から三〇年と認められる。そこで、本件における全面改築の許可をするにあたつては、借地法第七条の規定の趣旨を酌み、改築の時期からほぼ二〇年となるようそれぞれの期間を昭和六四年三月末日までにすることとする。

2  次に財産上の給付であるが、前述のように期間が延長される上、本件改築により建物の朽廃による借地契約の終了はたやすく期待されないことになること、及び本件賃貸借については、相手方小林から同山田に対し、昭和三一年頃七万円の権利金、その他に若干の金銭の支払がなされているが、そのほかには権利金等の授受はなく賃料もかなり低額であつたことなど借地に関する従前の経過のほか、なお、当裁判所に相手方小林から同山田に対し、小林が使用している部分に存する建物につき改築許可の申立(当庁昭和四三年(借チ)第一〇三九号事件)がなされている関係をも合わせて考慮し、転借部分の更地価格(鑑定委員会の意見に従い三・三平方米当り二二万円を相当と認める)の三%にあたる三三万円を相手方山田に支払うべき給付額とする。なお、相手方小林に対する給付については、右の事情のほか、資料により認められる同人と申立人との関係及び両者の意向をも酌んで五万円と定める。

3  賃料については、相手方小林は同山田に対し一ケ月一、七四〇円(三・三平方米当り一五円、ただし、この点について当事者の合意があつたかは措く)の割合で供託し、申立人は相手方小林に対し一ケ月八七〇円を支払つて来たのであるが、右は鑑定委員会の意見に徴しても低額と認められるので、右意見を酌んで、原賃貸借につき一ケ月七、五四〇円(三・三平方米当り六五円)転貸借につき三、三五〇円(三・三平方米当り六七円)と定めることとする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 安岡満彦)

(別紙)

(一)(1)  相手方山田の所有地

東京都中野区本町一丁目九番

宅地 二、一六五・二八平方米(六五五坪)

(2)  相手方小林の借地

右の土地のうち、三八三・四七平方米(一一六坪)

(3)  申立人の転借地

右のうち一六五・二八平方米(五〇坪)

(二) 現存建物

木造瓦葺平家建居宅 一棟

床面積 登記簿上三三・〇五平方米(一〇坪)

(三) 改築の内容

右建物を取りこわし、新たに

木造瓦葺二階建 居宅 一棟

床面積一、二階とも各八四・二九平方米(二五・五〇坪)を建築する。

(四)(1)  原賃貸借契約

(一)の(2) の土地を目的とし、賃貸人を相手方山田、賃借人を同小林とする普通建物の所有を目的とする賃貸借契約

(2)  転貸借契約

(一)の(3) の土地を目的とし、転貸人を相手方小林、転借人を申立人とする普通建物の所有を目的とする転貸借契約。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例